「あれ?」

 案の定試験時間はまだ先で、彼女は試験時間の張り出された紙と、自分の腕時計を交互に見比べていた。


「ごめんなさい、まだまだ試験時間先みたいです」


 照れくさそうに笑っているが、俺はさっきそれを言おうと思ったんだが。

 まぁ親切心でやってくれていることなのだろう。人の話を聞かないのはどうかと思うが、まだ時間はある。気にしないでおこう。


「そうだ、カフェテラスありますよ、そこでゆっくり待つといいかもです!」


 どこへ連れまわすつもりだと思ったが、ちょうど少しゆっくりしたいと思っていたので、今度は文句を言わずについて行くことにする。
 自販機で缶コーヒーを買い、ようやくゆったりと腰を据えることができた。

 案内も終わったし、女子生徒もどこかに行くだろうと思っていたのだが、彼女は何故か俺の向かいに腰をおろした。


「編入試験受けるって、どの辺の学校から来たんですか?」


 赤の他人の俺の情報なんて興味ないだろうに、何故そんなことを聞いてくるのだろう、そう思いつつも今通っている学校名を教える。「へぇ!そんな遠くから!」とか「私は生まれも育ちもずっとここで」とか、彼女のどうでもいい話も聞かされた。
よくしゃべる女だな。

 なんでそんなに元気が溢れているんだ、と疑問に思ったが、にこにこと楽しそうに話している彼女を、不快だとは思わなかった。


「なーに話してんの!」


 後ろからひょっこり男子生徒が現れた。


「椿!」


 椿と呼ばれた男子生徒は、これまた何故か俺の隣に腰を下ろす。

 なんなんだこの学校、みんなこんな馴れ馴れしいやつばっかりか?


「編入試験を受けに来たんだって」


 彼女がざっくりと俺を紹介する。


「へぇ!じゃあこれからこの学校通うんだな!よろしく!」


 そう言った男子生徒はこれまた馴れ馴れしく握手を求めてきた。


 俺はそれには答えず、「まだ試験、受けてすらないんだけど」と小さく返す。


「受かる受かる!眼鏡かけてるし、受かるよ!俺だって受かったんだから!」

 眼鏡と編入試験のパスとなんの関係があるのかは分からないが、このちゃらんぽらんそうな男が受かったのだから、まぁ受かるだろう。自信がなかったわけではないが、編入試験合格への確信が生まれた。