目の前で突然泣き出した。
いつも冷静な男、要もさすがに動揺する。
「大変でしたね…
…とりあえず、ソファに座って下さい。
話しはちゃんと聞きますから。」
要は席を立ち、目の前の2人掛けソファに彼女を誘導する。
ハンカチをそっと差し出し彼女に渡す。
「あっ…だ、大丈夫です……うっうっ…
ごめんなさい…突然泣いたりして…。」
遠慮する彼女の手に少し強引にハンカチを渡して握らせる。
「何か暖かい飲み物を。
コーヒーか紅茶か、
あっ、生徒が置いて行ったココアがあります。
甘い物の方がいいですよねきっと。」
普段は必要以上話さないようにしているが、
今の要は少々動揺している為、
思った以上に心の声が出てしまう。
「…あの、
すいません…ウッ…泣き止みますから…
お構いなく……」
彼女がメガネを外し、要が渡したハンカチで涙を拭く。
その仕草を何気なく眺めていた要の手が不意に止まる。
キレイだ。
大きくてくっきり二重の澄んだ綺麗な眼をしていた。
ドキッとして、思わず見惚れてしまう。
よく見れば、すき透るような白い肌にスラっと伸びた鼻筋、固く結んだ唇が震えている。
思わず、抱きしめたくなる衝動に駆られる。
何を考えているんだ俺は、生徒だぞ。
落ち着け、触れてはいけない。
「ココア、飲んで。
少し落ち着こう。
そしたら、申込書に記入して。
充分な理由です。自分のゼミに入って下さい。歓迎します。」
要はそっとココアを机に置き、申込書を机の引き出しから1枚取り出す。