握られた手を離して貰えなくて、しばし紗奈は固まる。

「あの…。」
紗奈は戸惑い、要の顔を伺い見る。

「せ、先生?」

はっ、と我に帰った様に要は紗奈の手を離す。

「…もし、良かったら、
このファイルを無期限で貸し出します。
自分の今までの設計した物を適当に挟んであるだけなんですけど、コンペに出しても没になったのも入ってますけど。」

そう言って優しく笑う要を見上げて、さっき握られた手の感触に戸惑う紗奈は固まったままだった。

「あーー。
やっぱりちょっと整理してから渡しますね。これはちょっとって言う図面とかも入ってそうです。
なんせ、学生時代のものも入れてあるので。」
ファイルをパラパラめくりながら要が言う。

「見たいです!
先生の作品初期からって事ですか?
レアじゃないですか。
全部見たいです。」

紗奈は我に帰って慌ててそう言う。
先生の貴重な設計図なんて絶対全部見てみたい。

紗奈の嬉しそうな顔とファイルを見比べながら要も降参したように、笑ってファイルを紗奈に渡す。

「本当、くだらない設計もあるので感想とか評価とか一切言わない事。
約束して下さい。」

「分かりました。
家で1人でこっそり見ます。」
紗奈は頷き、ファイルを大事そうに抱きしめる。

「さぁ。そろそろ昼休みが終わってしまいます。続きはまた次回、中山さんの時間が空いてる時に来て手伝ってくれればいいので。」

「はい。
じゃあ。月曜日からの昼休み、毎日来ていいですか?」

「毎日は、負担になってしまうといけないので、各日にしましょう。」

「ゼミ生にも手分けして手伝ってもらうつもりですから、1人で頑張ろうとしないでください。
あと、書庫の整理をする時は必ず連絡して下い。基本、自分が研究室にいない時は鍵を閉めますので。」

「はい、分かりました。」

「今日はお疲れ様でした。
これ、あなたからもらったカフェラテですが。」
そう言って笑顔で渡してくれる。

「頂きます。」
紗奈も笑ってそれを受け取った。