自転車で通う⁉︎

都心に近いこの大学に⁉︎
川を越えて電車でも30分以上はかかるはずだ。

しかも、
ゼミに入ればコンペの締切前にはどうしても帰りが遅くなるし、男子に限っては終電を逃した生徒は研究室に泊まったりしてるくらいだ。

女子生徒にそれはさせられない。
むさ苦しい男子生徒がゴロゴロ寝てる中に彼女が居るのか⁉︎

考えられないだろ⁉︎

ただでさえこんなに可愛いのだから、要らぬことを考える輩もいるのでは⁉︎

危なすぎる。
うちのゼミの風紀も乱れるのではないか⁉︎

あらぬ方向にまで考えが及び心配になる。

「…うちのゼミは、コンペ前など締切が近づくと徹夜で作業をする人も居ます。
帰りが遅くなるのは必須ですし、

都内ですから治安が良いとは言い切れません。何かあってはいけないので、
女子生徒に限っては家が近い人を厳選しています。」

どうしますか?
と優しく要は紗奈に意見を委ねる。

「…女子が学校に泊まっては行けないのですか?」

小さな声で紗奈が問う。

「残念ながら、大学には宿泊施設はありません。それにうちのゼミの大半は男子が多い為、学校で寝泊まりはお勧め出来ません。」

静かな口調で話す先生からは、
だからゼミに入るのは諦めて欲しいと言われてるみたいだ。

紗奈は肩を落として俯く。

申請書さえ書けば入れてもらえると思っていたのに、どうすれば入れるのだろうと考えを巡らす。

「な、泣かないで下さい。
中山さんがゼミに入いる為に、どうするべきか私の方でも考えますので、少し時間を頂きたい。」
焦った声で要が言う。

あっ、先生は私を追い出したい訳じゃ無いんだと、紗奈はどこか安心する。

「お手数をおかけして申し訳ないです。

でも、私どうしても先生のゼミに入りたいんです!」

手を握りしめて、訴える様に先生を見つめる。

「貴方の気持ちは良く分かりましたから、
ほら、これ以上暗くならないうちに帰った方がいいのでは?」

要は窓の外を見ながら退室を促す。

「私も、帰れない時はどうすればいいか考えてみます。
どうかよろしくお願いします。」

今日1日で先生に多大なる迷惑をかけてしまったと紗奈は心配し、恥ずかしくなる。

そそくさと出入口のドアに行き頭を下げて廊下に出る。

「あっ、中山さん!

明日、放課後またこちらに来てください。
ゼミについての詳細をお話ししたいので。」

急いでドア付近まで来てくれた先生が言う。

紗奈は見上げて「分かりました。」と答えた。
先生って背が高いんだ。

と、その時初めて気づいた。