約束の土曜日。梅雨明け宣言もされ、夏本番の晴天だ。晴れ渡った清々しい天気とは裏腹に、私の心は曇り切っていた。しかし約束したのだからと自分を奮い立たせてお姉ちゃんにメイクをお願いしに来ていた。

「えっと、のろけ?」

 先日花束をもらったことを報告したら、惚気だと言われてしまった。心外だ。

「ちがうよ!! 不倫した夫が急に優しくなるっていうやつでしょう?」

「そう? まだ不倫してないじゃない。変身したアンタとは食事だけで、妻には花束でしょ? ならいいじゃん」

「でも今日は……二人で出かけるんだよ? 浮気だよね? 不倫だよね?」

「正体は妻だけどね」

 確かに正体は私だ。だけど、夫が別人だと思っているのなら、それは不倫でしょう?姉は以前から新さんが他の女性とこうして出かけているのを知っていたんだろうか。聞きたい。聞いてみたい。でも、どうしても聞きたくない。
 ならば自分で確かめるしかない。今日行ってみて、変装した私に対して浮気と思える態度ならば、彼は黒だ。

「うう~。なんでこんなことに……どうしようお姉ちゃん」

 小心者で内気な私にはとても重いミッションだが、他の人に任せられるものでもない。行くしかないと思いつつも、心は全力で拒否したがっていた。

「ま、頑張りなさい。別人になってるんだし、言いたいこと言ってやりな!」

「……うん」

 今日も、前回と同じメイクだが、ウィッグの髪はアップにしてもらい、暑さ対策はばっちりだ。スタイリストさんは別の現場に行っているので、姉に可愛い服装を選んでもらう。
 普段の私は選ばない、ボルドーの透けトップスにトレンチスカート。膝上のスカートなんて久々だ。足元は華奢なベージュのパンプス。若々しく背伸びした感じの女性にみえる。

(いつもの私より、気が強そうに見える)

 今日彼がどんなつもりで私と会うのかわからないが、臨戦態勢で挑む。