私は手を引かれて、狭い船内からハルくんと一緒に脱出する。
顔を下に向けると、薄暗い深海へクルーザーが落ちていくのが見えた。
電池が切れたのか、ハルくんは水中ライトを投げ捨てる。
そして私の腰に腕を回すと、力強い泳ぎで海面へ向かう。
海の中で、幼少のトラウマを思い出す。
溺れた私を助けるため、夢中で泳ぐハルくん。
でも、今は違う……
足ヒレをつかって力強く泳いでる。
背中に重い酸素ボンベを背負ってるのに、それを感じさせない体の動き。
ウエットスーツを着てても分かるほど、鍛え上げられた肉体は水難事故で人を助けるためのものだった。
でも、太陽の光が当たる海面まではまだ遠い。
私はマウスピースを外して、ハルくんの口もとへ近づける。
それを拒否したハルくんは、酸素が吹き出るマウスピースを私の口へ……
船内から脱出して、彼はまだ酸素を吸ってない。
お願いだから、無理はしないで……
でも、私の胸の内は彼に届かない……



