ずっと、事務的に冷たく話してたハルくん。
でも、今は私が知ってる幼なじみの顔になっている。
「浸水した車と同じで、水圧が掛かるとドアは開かない。ある程度、水没して船内が海水で満たされるのを待っていたんだ。やっと船底にあるゲストルームの扉が開いて、ここに来ることができたんだ……」
「そうだったの?」
難しい話をされても、私には分からない。
それどころか、海水が増してくるスピードが早くなっている。
肩まで満たされた海水、狭い空間の中は私とハルくんだけ。
なんて考えながら、だんだん意識が薄くなってきた。
「ちょっと酸素が薄いな、奈々ちゃんコレを口にくわえて」
さっきまでハルくんが口にくわえてた、マウスピース。
その先に酸素が出る丸い形の部品が付いてるやつだ。
すごく恥ずかしくて照れるけど、今はそんなこと言ってる状況じゃない。
「わかった……」
ちょっと、ためらった後で私はマウスピースを口にくわえた。
そして、大きく息を吸う……



