幼なじみはエリート潜水士


「この状況から生きて帰るなんて不可能よ!っ」


 追い詰められた私は半狂乱になって、大きな声を張り上げてしまった。

 胸まで海水に浸かりながら、狭い空間で私の声が響き渡る。


「奈々ちゃんは俺が必ず助けるから……だいじょうぶだよ……」


 幼少のころに聞いた、懐かしい言葉が脳裏に浮かぶ。

 溺れていた私を助けた後、笑顔で話してくれたあの時のこと。

 今でも鮮明に覚えてるよ、私のヒーロー……


「でも……」


 ハルくんは、自分の左腕を海面から出して私に見せる。


「それって……」


 父がプレゼントしたダイバーズウオッチ。

 ハルくんは、自分の腕から外したダイバーズウオッチを、私の左腕に嵌めてくれた。


「これは俺のお守りだ、必ず生きて帰れる」


「うん……」


 私は、父の形見でもあるダイバーズウオッチを腕に、深く頷いて見せる。


「正直、船長からキミの名前を聞いた時、冷静でいられなかった……」


 胸元まで海水に浸かったまま、私は黙ってハルくんの話しを聞く。


「海面から少しだけ見えていた船底。ヘリコプターから降下した後、素早くよじのぼって何度も船底を叩いた…でも、反応は返ってこない……」


「ごめんなさい、気を失ってたみたい……」


「外に投げ出され、海面を漂ってる可能性もあったけど、俺はここに奈々ちゃんがいるって疑わなかった……ぜったい船内に残ってるって……」