「じゃあ、ちょっと遅れるとのことなので、名刺こうか~ん!」


 サトちゃんが両手で持つ自分の名刺を、目前の若手IT社長さんに突き出してる。


「えっ、いきなりこの場で? うそでしょ?」


 常識なんて関係ない、グイグイ前に出るサトちゃん無双にスーさんも驚きを隠せない。

 苦笑いしながら、社長さんも自分の名刺をサトちゃんに渡してる。


 受け取った名刺に視線を向けるサトちゃん。

 両横から覗き見る私とスーさんは、そろって口を噤んだ。

 何も言わないけど、心の中で思ってることは同じのはず。



 この人、若手IT社長なんかじゃない……



「僕はこれから、会社を立ち上げようと思ってるんだ。その際はヨロシクね」


 つまり、若手IT社長を目指してる人……


 今いる会社でこの人は役職なんだ。部下を引き連れ退職して、新しいIT会社を立ち上げようって感じなのかな?


 役職から社長になるのを夢見てる人か……

 などと考えてる途中で、テーブルに料理が運ばれビールも並べられ始めた。


「一人少ないけど、とりあえずカンパーイ!」


 サトちゃんは、ビールが入ったグラスを手に持って声を上げる。