「善、世の中は全て善い行いだけでは生きて行けません。生物は生物を食べて生きていく他、生きる方法はありません」

「……しょくもつれんさ?」

「よくご存知ですね」

「図鑑でみたの」



善との家には、沢山の図鑑や絵本が置いてある。

それは使い古しのものだけれど、ワタシがペアリング先を変えた時に一緒に持ってきたものだ。

それを善は好んでよく読んでいる。



「ママはナニで出来ているの?」



そして、人間ならば応えにくかったであろうことを、純粋な眼差しで尋ねてくる善。

ワタシは彼に理解出来るような言葉を探り、噛み砕いて説明をする。



「ワタシ、陽葵という個体は、主に鉄の塊で出来ています。肌には柔らかくシリコンが、喉にはスピーカーが内蔵されており、脳にはいわゆるPCが埋め込まれており──」



ぽかん、とその口を開いたままの善に、ワタシは更に続ける。



「──ワタシを提供してくださった『母』から、人間的思考を受信しています」

「ママのママ?」

「そうです。彼女は自身の思考のみを提供してくださり、アンドロイドのココロとなることを選択しました」






「ママのママのお名前は……?」

「陽葵《ヒマリ》──ワタシに名付けられたものと同じです」



彼女は、同じ名前をワタシに付けた。