「マァ」



ベチベチ、顔に振動が伝わり、頬がきしむ。

メモリに保管されていた《《音》》から切り離され、最近新たにペアリングした子供へと顔を向ける。



瞳として埋め込まれたレンズの焦点を子供へ移すと、彼は膝へ乗り上げてワタシの顔を叩いていた。



「善《ぜん》、この前ワタシの顎に頭突きして泣いたばかりなのですから、気を付けてください」

「うー!!!」



急激にテンションを上げた個体『善』が、首に腕を巻き付ける。

アンドロイドのワタシ・個体名『日葵』は、例え首が絞められていても苦しくなることはない。



「充電コードを引っ張らないでください、危ないですよ」

「マァ!マァ!」

「ここのところ充電不足が続いているのですから、このままでは動けなくなってしまいます。速やかに眠ることを推奨します。ワタシの髪を食べないでください」

「あぶぅー」



その時、ほのかな香りを感知したワタシは、充電コードを引き抜き、オムツを取りに行った。









『――本部より、宵《よい》からギフトが届いています』

「受け取りません。処分してください」

『しかし、』

「処分してください」

『…………かしこまりました』



月に一度、ワタシ宛に贈られるギフト。

これで何度目だろうか、ひとつ前のペアリング相手である宵の育児は終了している。

既に里親へと引き継いだのだから、アンドロイドのワタシとはもう関係を維持する必要はないというのに。



なぜ人間は、この先の未来に必要のないものまで維持したがるのか。