「完全にトラブルがないってわけじゃないから、叱ったりはするけどね」
「叱る……」
叱るだけで……収まるの……???
すごい、私の想像してた世界と全然違うから信じられなすぎる。
「まぁ会社なんかと一緒でさ、ここの居心地を良くすればトラブルの解決もスムーズだし、人が離れてったりもそこまでしないんだよ。卒業はしていくけどね」
「そうなんですか?」
「そーなの。みんな寂しがり屋で自分に自信がないだけ。それを黒曜では互いが認め合うように意識させてるだけだよ。だから居心地がいい」
黒曜へと向かっている車の後部座席、咲くんは私を下から覗き込むようにして、ふわりと笑う。
「きっと、君にとっても居心地がいい」
私に、とっても?
「人数は多いけど、みんな家族みたいなもんだよ。顔は怖いかもしれないけど、仲良くしてやって」
それは、撫でるような柔らかい声で。
けれど、どこか縋るような声にも聞こえた。
いいように使われるかもしれない。
男の人の群れの中に、女が一人飛び込む……なんて、危ないって怒られるかもしれない。



