トントン、いつも登る階段の音がする。
ふわふわ、揺られて気持ちがいい。
ゆりかごの中にいるみたいだ。
「ふふっ」
なにもないのに、楽しくなってしまう。
胸の中が暖かくて、ずっとこの中にいたい。
咲くんの香りが鼻腔いっぱいに広がる。
どんな匂いかと聞かれても答えられない、彼自身の柔らかい、安心するような香り。
「琥珀、咲くんの香り好きだなぁ」
もう、半分寝言のような感覚で、言葉が勝手に口から出ていってしまう。
天性の甘えん坊な琥珀は、咲くんの首元にきゅーっと抱きつきながら、運ばれていった。
それは、無意識に咲くんを信用していたからかもしれない。
怖い人にはさすがに抱きつかなかったと思うし、いおりさんや雨林さんになんて以ての外だっただろう。
咲くんだから、安心して……。
「まったく、こういうことは俺以外にしちゃダメだからね?」
柔らかなスプリング、上からかかる毛布。
ふわふわとして気持ちがいい。
咲くんの香りのする空間に包まれて、静かに意識が落ちていった。



