「知らないんですか?今、生徒の間で流行ってるんです。こうやって生徒手帳をデコるの」

「勿論生徒手帳だけじゃなくて、ペンケースとか学生鞄とか、持ち物を色々デコるんですよ」

「まぁ、一番流行ってるのは生徒手帳なんですけど。男女問わず、皆思い思いにデコってるんです」

三人娘が、順番にそう説明してくれた。

へぇ…。生徒の間に…そんなブームが。

「でも、先生方は生徒手帳はお持ちじゃないでしょう?」

まぁ、そうだな。

生徒じゃないからな。

教師手帳なんてものもないし。

「だから、代わりに名札が狙われたんでしょうね〜」

と、にこにこしながら言われてた。天音。

代わりに、ってお前…。

「あなた達…。生徒手帳を何だと思ってるんです。好きなように飾れるクリスマスツリーじゃないんですよ」

元の見る影もない、きらきらデコられた生徒手帳を見て。

鬼教官イレースが、眉を顰めたものの。

やってしまったものは、もう戻らない。

それに。

「へぇ〜可愛いね〜!上手にデコってるなぁ〜」

学院長であるシルナが、デコられた生徒手帳に興味津々。

お前が一番、「貴様ら、生徒手帳を何と心得る!」と叱らなきゃいけない立場なんだぞ。

それなのに、叱るどころか褒めてるんだもんな。

イレースがいくら怒ったところで、トップにいるシルナがこれじゃあ、まるで効き目はないだろう。

天音もデコられてる上に、ナジュなんか自主的に、率先してデコってるもんなぁ。

「それ見せてもらっても良い?」

「どうぞー」

「ほわー、レースまでついて…皆センスあるんだねー、かわい…ん?」 

ん?

シルナが、何かに気づいて手を止めた。

…どうしたんだよ。

「なんか今、ふわっと…良い香りがした。これ、何か塗ってる?」

…言われてみれば。

さっきから、フローラルな香水みたいな良い香りが漂ってくる。

部屋の中に、チョコの匂いが充満しているから気づきにくいけど。

「おっ、さすが学院長先生。良いところに気づきますね〜!」

「え、そう?」

調子に乗るな。

「生徒手帳に香水を振ったり、香り袋を挟んだりして、良い匂いをつけるのも流行ってるんですよ」

「私のには、香水をつけてるんです」

「あ、成程。それでこんな甘い匂いが…。へぇ〜」

考えたもんだなぁ。

見た目だけじゃなく、香りにまでこだわるとは。

「良いなぁ〜。私も、名札にチョコケーキのチャームつけて、チョコレートの匂いをつけたい」

絶対言うと思ったよ。

シルナ以外、誰も得しないデコレーションだな。