言うまでもないが、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアは不死身である。

つまり、殺しても死なない。

故にナジュは長年死に場所を求めて、辛く苦しい放浪の旅を続けていたのであるが…。

今ではイーニシュフェルト魔導学院に落ち着き、居場所を得ている。

…ものの、彼が未だに死に焦がれていることは、学院の教師陣なら誰でも知っている。

要するにナジュにとって、死ぬことはご褒美であり。

決して恐れるものではないし、むしろ殺してくれるなら大歓迎、なのだ。

七日後に毒が回って死ぬ、という『白雪姫と七人の小人』のルールを聞いたときから、思っていた。

「ナジュにとってはこれ、ご褒美ルールだな」と。

そして、同時に…。

「そ、そうか。そんなに死にたいのか」

「えぇ、とっても」

「言っとくけど、これは脅しじゃないんだぞ!本当に死ぬんだからな!」

「そうなんですか。それは心強いですね!さぁどうぞ。七日と言わずに今、今やってくださいよ、ほら」

「そ、そう言うなら…死ね!」

小人が、大声でそう叫んだ。

同時に、ナジュの指に嵌まっていた茨の指輪が、ナジュの身体にブスリと棘を刺した。

「な、ナジュさん!」

天音が、青ざめて声をあげる。

ナジュは気を失ったように、その場に崩れ落ちた。

…毒…効いた、のか?

「は、ははは!ざまぁみろ!僕に優しくしないからだ。その報いを受けたんだ。白雪姫の毒は…」

「…効かないですね、こんなものですか?」

「!?」

死んだかと思われたナジュが、パチッと目を開けた。

…うん。

ナジュはこのルールに喜ぶだろうな、と思うと同時に…。

…この程度では、死なないだろうと思っていた。

「な、何で?何でだ?」

ブスッ、ブスッと繰り返し毒を刺す。

が、その度にナジュは生き返る。

多分、毒を刺す度に死んではいるんだろうが(一般人なら)。不死身のナジュは、こんな毒程度では死なない。

それどころか、段々と毒に耐性がついてきたのか、復活する速度が上がってる。

刺された傍から生き返ってる。

「不死身先生って、『アメノミコト』で使われてる毒でも、『痛たたた』で済ませるもんね」

「痛いどころじゃ済まないはずなんだけとねー、あれ」

死に慣れ過ぎて、色々感覚が麻痺してる。

そんなナジュを、いくらイーニシュフェルトの里の魔法道具と言えども、殺すことは出来ない。

…まぁ、ナジュにしてみれば。

そんなことで死ねるなら、苦労してねぇよ、って言いたいだろうな。

「うぅ…。何でだ?何で死なないんだ!?」

「ふっ。諦めることですね。あなたに、僕は殺せない…どころか」

「え?」 

ナジュの瞳に、殺意が宿った。

「これまでの我儘のツケとして…あなたが、痛い目を見てもらいましょうか」

「…ひっ…」
 
…これは泣くわ。

もう、優しさの欠片もない。

仕方ないな。それだけのことをしたんだから、この小人は。

ナジュだって、好きで脅してんじゃないんだよ。

脅してるって言うか…割と本気だけど…。

「ひっ…う、い、嫌だぁぁ」

「あ、こら」

これは本気で、マジでヤバいと思ったのか。
 
あるいは、自分の圧倒的劣勢を悟ったのか。

ピンク小人は感情の小瓶を放り出して、泣きながら棺桶に逃げ込んだ。