あんなちっぽけな柿の木から落ちたところで、僕は全然ノーダメージなのだが。

例の女が、まるで大怪我でもしたかのように騒ぐので。

その後、僕は病院に連れて行かれた。

病院は好きじゃない。特に注射は嫌いだ。

注射はしないで、と看護師に頼んでみたが。

我儘言わないの、と言われた。

僕は針が嫌なんじゃない。何を注射されているのか分からないのが嫌なのだ。

こっそり神経毒でも混ぜられていたらどうしよう、って…不安になることない?

え?ならない?

…変わってるね。

とはいえ幸い、注射はされなくて済んだ。

代わりに、レントゲンなるものを撮られた。身体の中の写真らしい。

例の女と共に、診察室に呼ばれ。

ハゲ頭の医者に、「何処にも異常はないですね」と言われて初めて。

その女は、涙を流さんばかりに安堵していた。

大袈裟過ぎる。

別に、何処も怪我してないのは分かりきっているのに。

怪我していたら、痛みで分かる。

痛みで分からない怪我は、怪我にカウントされない。

放っとけば大体治る。

それが僕の持論だったのだが…。

どうやらこの女は、医者のお墨付きをもらわなければ、気が済まなかったようだ。

更に。

「あんな危ないことするなんて…。怪我がなかったから良かったようなものの…」

帰ってからも、ぶつぶつと文句を言われた。

大袈裟だな。

…ところで、この人は誰なんだろう?

この女、僕のことを何故か「令」と呼ぶ。

僕の名前は令月なのだが…。敢えて略称で呼んでいるのだろうか?

僕にとってこの人は初対面なのに、あだ名で呼ばれるのって、何だか嫌だな…。

と、思っていたら。

「良い?令。もうお母さんを心配させないでね。お願いだから」

その女は、僕に向かってそう言った。

…お母さん?

この人、僕にとって母親なのか?

これは青天の霹靂だった。