…。
…お兄ちゃん?
それは、誰のことだ?
「お兄ちゃんには…描いてあげたいけど…」
「…けど?描いてあげたら良いのに。今度来たとき、一緒に渡そう」
「はい。だけど、お兄ちゃんの似顔絵は、何だか難しいんです」
と、少女は答えた。
そういえばこの子は、俺や後輩のことを、何故か「お兄さん」と呼んでいるよな。
子供は、自分の世話をしてくれる看護師のことを、そんな風に親しみを込めて呼ぶものなのだろうか。
それで、お兄ちゃんというのは?
俺達は「お兄さん」だから、お兄ちゃんとは違うのだろうか。
しかし、その疑問を口にする必要はなかった。
俺は覚えていないが、ちゃんとこの身体に宿った記憶が、俺に教えてくれた。
お兄ちゃんというのは、文字通り、この少女の実の兄のことだ。
少女にとっては、唯一の肉親でもある。
そう、少女には両親がいないのだ。
少女は俺達以上に、お兄ちゃん…実の兄のことを慕っているけれど。
社会人の兄はいつも仕事で忙しく、なかなか会いに来ることが出来ない。
でも、月に何度かの休日になったら、必ず少女に会いに来る。
たった二人の兄妹だから。
そして、そのときに俺は知った。
少女が俺達看護師を「お兄さん」と呼ぶのも、なかなか会えない本物の兄の代わり。
そもそも、数少ない男性看護師が少女の担当になっているのも、少女自身の希望なのだ。
本当の、大好きな兄には、なかなか会えないから。
せめて、自分の世話をしてくれる看護師は、自分の兄に似た、若い男性が良い、と。
「そう?難しいのか?」
「はい…。いつも顔が見られる訳じゃないから…」
と、少女は少し表情を曇らせた。
俺達看護師なら、毎日嫌でも顔を見る機会があるが。
本物の兄は、月に一、ニ回しか会いに来られないから、似顔絵を描くのも難しいのだろう。
それに、描けたとしても、次に兄が会いに来てくれるまでは、渡すことも出来ないから。
「だから、代わりにお手紙を書こうと思って…今、書いてる途中なんです」
少女は、そう答えた。
「そうか。それは良い考えだな」
と、俺は言った。
絵が難しいなら、文章にすれば良い。
手紙なら、いつでも送ることも出来るしな。
「でも…やっぱり、絵の方が良いでしょうか?お兄さん、どう思います?」
それは、俺に尋ねてるのか?
俺個人は、どちらでも、好きな方にすれば良いと思うが。
「両方書いてあげたら良いよ。お手紙も、似顔絵も」
俺の代わりに、小さいお兄さん、後輩が答えた。
安直だな。
「難しいなら、手伝ってあげるから。お手紙も似顔絵ももらったら、きっとお兄ちゃん、凄く喜んでくれるよ」
「本当?そうですか?」
「うん、きっと」
「お兄さんがそう言うなら…じゃあ、似顔絵も頑張って、描いてみます!」
少女は、弾けるような笑顔で答えた。
…儚い。
とても、儚い笑顔だった。
…お兄ちゃん?
それは、誰のことだ?
「お兄ちゃんには…描いてあげたいけど…」
「…けど?描いてあげたら良いのに。今度来たとき、一緒に渡そう」
「はい。だけど、お兄ちゃんの似顔絵は、何だか難しいんです」
と、少女は答えた。
そういえばこの子は、俺や後輩のことを、何故か「お兄さん」と呼んでいるよな。
子供は、自分の世話をしてくれる看護師のことを、そんな風に親しみを込めて呼ぶものなのだろうか。
それで、お兄ちゃんというのは?
俺達は「お兄さん」だから、お兄ちゃんとは違うのだろうか。
しかし、その疑問を口にする必要はなかった。
俺は覚えていないが、ちゃんとこの身体に宿った記憶が、俺に教えてくれた。
お兄ちゃんというのは、文字通り、この少女の実の兄のことだ。
少女にとっては、唯一の肉親でもある。
そう、少女には両親がいないのだ。
少女は俺達以上に、お兄ちゃん…実の兄のことを慕っているけれど。
社会人の兄はいつも仕事で忙しく、なかなか会いに来ることが出来ない。
でも、月に何度かの休日になったら、必ず少女に会いに来る。
たった二人の兄妹だから。
そして、そのときに俺は知った。
少女が俺達看護師を「お兄さん」と呼ぶのも、なかなか会えない本物の兄の代わり。
そもそも、数少ない男性看護師が少女の担当になっているのも、少女自身の希望なのだ。
本当の、大好きな兄には、なかなか会えないから。
せめて、自分の世話をしてくれる看護師は、自分の兄に似た、若い男性が良い、と。
「そう?難しいのか?」
「はい…。いつも顔が見られる訳じゃないから…」
と、少女は少し表情を曇らせた。
俺達看護師なら、毎日嫌でも顔を見る機会があるが。
本物の兄は、月に一、ニ回しか会いに来られないから、似顔絵を描くのも難しいのだろう。
それに、描けたとしても、次に兄が会いに来てくれるまでは、渡すことも出来ないから。
「だから、代わりにお手紙を書こうと思って…今、書いてる途中なんです」
少女は、そう答えた。
「そうか。それは良い考えだな」
と、俺は言った。
絵が難しいなら、文章にすれば良い。
手紙なら、いつでも送ることも出来るしな。
「でも…やっぱり、絵の方が良いでしょうか?お兄さん、どう思います?」
それは、俺に尋ねてるのか?
俺個人は、どちらでも、好きな方にすれば良いと思うが。
「両方書いてあげたら良いよ。お手紙も、似顔絵も」
俺の代わりに、小さいお兄さん、後輩が答えた。
安直だな。
「難しいなら、手伝ってあげるから。お手紙も似顔絵ももらったら、きっとお兄ちゃん、凄く喜んでくれるよ」
「本当?そうですか?」
「うん、きっと」
「お兄さんがそう言うなら…じゃあ、似顔絵も頑張って、描いてみます!」
少女は、弾けるような笑顔で答えた。
…儚い。
とても、儚い笑顔だった。


