パン屋からナサと並んで家まで帰る途中、わたしはポケットからお財布を取りだした。

「ナサ、パンのお金いくらだった?」

「パンのお金? 今日はオレの奢りでいいよ。次は朝食作って」

 え、

「朝食? 次って、つぎもダンスの練習に付き合ってくれるの?」

 何度も足を踏んだり、ターンに転けたり、つまずいてナサの胸元に顔を埋めるといった、壊滅的なダンスを披露したのに。

 ナサはいつも通り笑って

「シッシシ、いくらでも付き合ってやるよ。リーヤの相手は、オレしか相手できないだろな?」

「うっ……ありがとう、ナサ。助かります」

 とことん下手なわたしの練習に付き合ってくれるようだ。だったら、ナサの好きな朝食を作らないと。

「ナサの朝食はパン、ごはん?」

「オレか? オレはパンの方が多いかな?」

 朝食は自分で作るのかと聞くと、宿舎の食堂で食べるらしい。朝から騎士団と顔を合わせるのが、嫌だと眉をひそめた。

「次に、ナサの好きな、オカズは?」

「ハムエッグとスクランブルエッグ、ソーセージ……あ、リーヤが前に作ったホットサンドが食べたい」

「ホットサンド? ホットサンドならわたしも好きでよく作るわ、あとはフレンチトーストとかね」

「フレンチトーストもいいな、蜂蜜たっぷりかけて食べたい……シッシシ、食いもんの話ししてたら腹減ってきた」

 "グウッゥ"とナサのお腹が鳴った。


『フフッ、早く帰って朝食を食べよう』と、ナサと並んでわたしの家に帰ってきた。鍵を開け、お客さん用のスリッパを出して、ナサを招き入れる。

「散らかってるけど、遠慮せずに入って」

「おじゃまします。はぁ、腹減ったぁ」

 ブーツを脱ぐサナより、先に入ったダイニングに。
 昨夜お風呂の時に洗った下着が何枚か、洗濯干しハンガーにぶら下がっている。ちょうどブーツを脱ぎ終わり、入ろうとしたナサを止めた。

「ま、待って、ナサ、いま、コッチを振り向かないで」

「ん?」

 ナサはわたしの慌てように"ああ"と、なにか気付いたようで、シッシシと笑った。

「リーヤ、慌てなくていい、落ち着け」

「ごめん、すぐに片付けるから」

 ナサに玄関で待っていてもらい、わたしはチャッチャと洗濯干しハンガーを寝室に片付ける。


(……これで、いいわね)


「もういいよ、入って」

「おじゃします」


 ナサをダニングに通して、キッチンでヤカンに水を汲みコンロでお湯を沸かして、コーヒーをいれる準備を始めた。

 後ろのテーブルで、ガサゴソと袋の音を開ける音が聞こえる。

「はいお皿、座って先に食べていて、すぐにコーヒーいれるから」

「おお、それよりテーブルの下に、花柄のハンカチが落ちてるぞ……っ!!!」


「え? 花柄のハンカチ?」


(……そんな柄のハンカチって、持っていたかな?)


 コーヒーをいれて振り向くと、ナサはテーブルのそばで頬を赤くして、尻尾をユラユラ動かしたまま固まっている。

「ナサ? コーヒーはいったよ」
 
 声をかけると大きな体をピクッとさせて、わたしの方に手を突き出した。

「ハンカチ? ありがとう」

「いや、す、す、すまん、リーヤ……の、可愛いハンカチだと思って拾ったんだが、コ、コレって……リーヤのアレだよな、ごめん」

 アレ?

「本当にごめん」

「?」

 かなり焦っているナサに手渡しされた物を見ると、これはハンカチではなく、花柄の紐パン…………だった。

「ええ!」

(うわぁ、わたしのニ番目のお気に入りの下着! ……ううん、そうじゃない……下着をナサに拾わせてしまうなんて)

 あーー、恥ずかしい。

「い、いま、片付ける途中に落としたんだわ。ナサ、拾ってくれてありがとう」

「い、いいや、そうか……ハハッ」

 頬を真っ赤に染めて、わたしとナサの間に変な空気が流れた。