社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 千景がホールに入っていくさっきの男を見送りながら、
「いい方ですね」
と言うと、将臣が、

「……何処がだ」
と言う。

「でも、忠告してくださいましたよ」

 忠告じゃなくて嫌味だろっ、と怒られた。

 将臣が八十島を振り返り言う。

「ああそうだ、社史編纂室の前倉さんに、こいつを講演会に連れてきてると連絡してくれないか」

「ご連絡されてなかったんですか?」

 有能な秘書、八十島は眉をひそめた。

「いきなり、そんな見たこともないような新入社員を連れてきて。
 ただの私への連絡ミスかと思ってたんですが。

 もしかして、あれですか。

 うっかり一夜を共にしてしまい、寝過ごして。

 慌ててそれぞれが出社しようとしたが、タクシーが一台しかつかまらず、仕方なく、二人で此処に駆け込んだとか?」

 ……どうしよう。
 半分は当たってる。

 でも、前半は濡れ衣ですよっ、と思う千景の前で将臣が言う。