社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 


 セントラルホールに着くと、若手男性秘書の八十島裕(やそじま ゆたか)が将臣を待っていた。

 色素が薄い感じの美形だが、目つきが鋭すぎて、千景はちょっと苦手だった。

「社長、遅かったですね」
「ああ、いろいろあってな」

「それは……?」
と八十島が千景を見る。

 それとか言われてしまいましたよ、と思う千景を将臣もチラと見下ろし、
「拾った」
と言う。

 先に手を挙げたのは私なので、どちらかといえば、私があなたを拾ったのでは……、
と往生際悪く思う千景の前で、将臣が八十島に説明する。

「今日、会議の前に講演する磯崎の社長は、うちとも古くから関わりがあるから、ちょうどいい。

 こいつにも話を聞かせようと思って。

 社史編纂室の……」

 で、言葉を止め、将臣はこちらを見た。

 やはり、名前は知らないようだ、と思いながら、千景は八十島に向かい、頭を下げる。

「嵐山千景です」

 そういえば、社長には頭を下げてないな、と気がついたが。

 ……まああの状況じゃしょうがないよな~、とおのれに言い訳しながら、言われるがまま、二人についてセントラルホールに入っていった。