社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「大丈夫。
 体調崩すほどは太ってませんよ」

 そこは上手くコントロールしてくれているようだ。

 だが、まだ付き合ってもいないのに、体重も体調も栄養も管理されているっと武者小路は怯えた。

 ヘンゼルとグレーテルッ!

 坂巻の部屋にある檻に入れられ、次々甘いものを差し入れられる自分を妄想する。

 だが、そんな震え上がる武者小路に、坂巻は地面を見つめ、しょんぼり言った。

「でも、編纂室ももう解散。
 バラバラになっちゃうんですね」

 そんな顔されると、こっちも寂しくなってくるな、と思ったとき、坂巻が呟いた。

「武者小路さん、営業に戻ったら、よく動くから、きっと痩せちゃいますよね。

 なかなかお菓子も差し入れられなくなるし。

 すごく格好良くなって。
 すごくモテて。

 もう私のことなんて……っ!」

 坂巻の妄想も暴走しているようだった。

 もういっそ、今すぐ檻に閉じ込めてしまおうかっ。
 でも、この人閉じ込められるくらいの檻、ペットショップにあるかしらっ!?
 みたいな迫力ある顔で振り返られる。

 ひっ、と思った武者小路は急いで、パウンドケーキを平らげ、
「よしっ、走るぞっ」
と駆け出した。

「あっ、待ってくださいっ」
と坂巻が慌てて追いかけてくる。