社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「まあ、私も恋愛方面には明るくないので、いいアドバイスはできませんが。

 雑誌やネットで見たところによると。
 やはり、夜景の見える素敵なレストランで食事をしたあと、指輪など渡すのがよろしいかと」

 それ、自分が千景にしたかったんだろうな、と思うと、ちょっと申し訳なくなってくる。

 ……そして、指輪は俺ではなく、母親が渡してしまったんだが。

 この間、猫と遊びに来ていた千景に、早百合が、あっさりアレキサンドライトキャッツアイの指輪を渡してしまったのだ。

「約束ですからね。
 ちゃんと受け取りなさい」

 そう言って。

「こ、こんな高い指輪もらえませんっ」
と千景は怯えていたが。

 ほんとうに怯えていたのは、その指輪にもれなく俺がついてくることではなかろうか……? と将臣は思っていた。

「ありがとう、八十島」

 とりあえず、彼の好意に感謝し、将臣は言ったが、八十島は、
「いえ。
 まあ、こんな普通のデートコース。
 嵐山相手に上手く行くとも思えません。

 そもそも、プロポーズか告白でもされそうな気配を察して、呼び出しにも応じてこないかも」
と言う。

 自分の中の千景、そして、たぶん、八十島の中の千景も。
 野生の勘で気配を察し、毛を逆立て、威嚇しながら逃げていっていた。