社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「益岡さんがいないときには、行ってやらないと寂しいかと思って」

 長く真実を聞かないままだった千景の頭の中にはもう、ヘブンズハウスの近くの別邸に、将臣の愛人が住んでしまっていた。

 その状態で、今、聞いた事実を付け加えてしまったので。

 その別邸に、母親と家政婦さんと、複数の愛人たちが住みはじめた。

 あいつら、と聞いたからだ。

「……心の広いお母様ですね」
と思わず、呟いて、

「何故だ……」
と言われる。

 大変な秘密を知ってしまった、と思っている千景の頭の中では、すでにこのタクシーの横に黒い車が並走していた。

 黒づくめの男が千景をライフルで狙っている。

 いやそれ、社長にも当たりますよと、千景が妄想の中の殺し屋さんに話しかけたとき、運転手さんが笑って言った。