社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 


「なんなのよ。
 私が狙ってたのに……」

 痩せた武者小路さん、と昼休み、公園のベンチで律子が言った。

 並んで買った決まった曜日にしか開かないパン屋のパンを横からむしりとられながら、千景が言う。

「まだ武者小路さん、痩せていないので。
 その律子さんが欲している武者小路さんは、まだこの世に存在していないのでは……」

 公園の緑の向こう。
 大きな車道沿いの歩道を坂巻と武者小路がジャージ姿で走っていくのが見えた。

 そちらを窺いながら、
「この間は、タクシーの中から見ましたよ、走ってる二人」
と千景は言って、

「いや、あんた、まだタクシーで通ってんの?
 どうなの、遅刻癖の治らない社長と新入社員」
と呆れられてしまった。