社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「社長が呼んでおかれたらいいのではないですか?」
「俺はいつも遅れてるわけじゃないぞ」

「私もいつも遅れてるわけではないですよ」
と二人は言い合う。

「それに、そもそも俺はいつも、こっちに泊まってるわけじゃないからな」

「そういえば、社長のおうち、この辺りじゃないんですよね?
 何故、いつもここから……」

 はっ、また訊いてしまった、社長の秘密っ、と思ったとき、将臣が嫌な顔をした。

 ……一体、どんな秘密がっ、と怯える千景に将臣はその渋い顔のまま言う。

「……母の家があるんだ」

「お母様の?」

「母は、いつもフラフラ遊び歩いていて。
 今も日本にいないんだが。

 この間から、家政婦の益岡(ますおか)さんも実家の用事で来られないことが続いてて。
 あいつらだけになってるから」

「あいつら?」