社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 坂巻のように、上から落下していたわけではなかったので、ソフトに抱き止めるくらいですんだ。

「あ、ありがとうございます」
 間近に千景が自分を見上げる。

 可愛らしい手乗りのなにかのような瞳だった。

 なにかってなんだと問われたら、わからないんだが……と武者小路は思う。

 でも、なんだかわからない小動物的な可愛いなにかだ。

 そして、ちょっと思っていた。

 今の俺がこいつを支えても、絵にならないが。

 戸塚ならなるよな、と。

 いつまでも離さないでいる自分を、どうしたんだろうな、という目で見る千景を見つめ、武者小路は言った。

「……今思った」