社長っ、このタクシーは譲れませんっ!




 嵐山は昨日も戸塚といたのか。
 まあ、なんだかんだであいつは格好いいよな。

 部活やめても太らねえし。
 鍛えてるんだろうな。

 そんなことを思いながら、武者小路は階段を上がっていた。

 別に痩せようと思ったわけではないのだが、なんとなく。

 運動不足だしな。

 うん。
 最近、成人病、一歩手前までいってるしな、うん。

 別に嵐山のために痩せて格好よくなりたいとかではない。

 そんなことを考えていたとき、千景が踊り場に現れた。

 冊子を手に鼻歌を歌っている。

 いつも通りな感じだ。

 千景は階段に向かい、曲がろうとしたようだったが、早く曲がりすぎたらしく、手すりの角が腹に刺さっていた。

「がふっ」

 少年漫画でザコキャラがやられたときのような声を上げ、千景はよろめいた。

 ほんとうにこんな断末魔の声上げる奴、いるんだな、と思いながら、武者小路は冷静に千景を支える。