「……ぐだぐだやかしまい奴だなっ。
 しょうがない、お前も乗れっ」

「えっ?
 でも、社長と出社するとか……」
と千景は言いかけたが、ほんとうに急いでいるらしい将臣は、小さく舌打ちをしたあと、千景を抱き上げた。

 えっ? と思っている間に、お姫様抱っこで、車内に荷物のように放り込まれる。

「奥へつめろっ」

 将臣が乗ってくる。

 おしくらまんじゅうかという勢いで、肩で押され、千景は奥へと移動した。

 将臣は運転手に向かい、
「すみません。
 三丁目のセントラルホールまで」
と言った。

「ええっ!?
 会社に行ってくださいっ」

「やかましいっ。
 俺は今日はまっすぐセントラルホールなんだっ」

「そういえば、そもそもなんで、タクシー止めてんですかっ。
 社長なら、黒塗りの車が旗立てて迎えに来るはずですよねっ?」

「旗は立ててこないぞ……。
 っていうか、こっちにもいろいろ事情があるんだ」
と言ったあとで、将臣はちょっと考えるような顔をした。

「おい、社史編纂室」