社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「そうか」
 八十島は、チラと前倉のいないデスクの方を見たあとで、行きかけたが、戻ってくる。

「『あっ』ってなんだ?」

 すでに仕事に戻って集中しかけていた千景は、いきなり耳元で言われて、ひっ、と身をすくめた。

「『あっ』ってなんだ?」

「だから、なんでもありませんってばっ」

「いや、お前はなにかを隠している……」

 『あっ』ってなんだ? と繰り返された千景は資料のページをめくりながら、八十島に言った。

「八十島さん、細かいことが気になって仕方ない人なんですね。
 結構め……」

 あ、すみません、と千景は笑って誤魔化そうとしたが、

「結構めんどくさい奴だな、と今、言おうとしただろう」
と言い当てられてしまう。

 いえいえ、そんな~っ、と千景が言ったとき、ちょうど前倉が戻ってきた。

「お疲れ様です」
と八十島はすぐにそちらに行ってしまう。

 ほっとしながら、前倉さんに対する八十島さんの態度、私や社長に対する態度と全然違うな~と思っていた。