社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 よし、仏をやって寝ようっ、と思った千景の足元になにかがふわっと現れた。

 下を向くと、この辺りにたまに出没する猫がいた。

 可愛いオスの三毛猫だ。

 面構えはどこの渡世人(とせいにん)ですかという感じで、厳しいが、瞳は愛らしい。

 もとは可愛かったのが、荒れた世の中でこんな風な何処ぞのヒットマンみたいになってしまったのだろうと勝手に思っている。

「あっ、与太郎(よたろう)っ。
 久しぶり。

 最近、見かけないから、何処かに売り飛ばされたのかと思ったよっ」

 三毛でオスだしな、と思いながら、千景はしゃがんで与太郎を撫でる。

 千景にある程度撫でられると、満足したらしく、与太郎は行ってしまった。

 あんなに触らせてくれる野良猫がいるとか。

 ほんとうに、いい場所だ。

 アパートのみなさんも感じがいいし。

 ヘブンズハウスっていうか。

 この辺り一面が天国(ヘブン)って感じっ、と千景は、将臣たちに、
「辺り一帯、全員、死ぬ気かっ!?」
と言われそうなことを思っていた。