社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 


 あー、猫可愛かったし、ケーキも美味しかった。

 今日は益岡さんの手料理もご馳走になってしまったし。

 いい一日だった。

 千景は、ぽつぽつ灯りのともっている、将臣の言うところの『桃木町3丁目ヘブンズハ』を見上げる。

 今日は益岡は家に帰るというので、益岡と途中まで一緒に帰ったのだ。

 さっきの角で別れたのだが、
「あら、ここが千景さんのアパート。
 可愛いアパートね」
と微笑んだ益岡も、

「ありがとうございます」
と微笑み返した千景も、将臣が死ぬほど、このアパートの所在地を知りたがっていることに気づいてはいなかった。

 ぼんやりした千景だけではなく、益岡まで、そのことに気づかなかったのは。

 まさか、これだけ親しくなっておいて、家も知らないだなんて思ってもみなかったからだ。