社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 しかし、なんなんだ、今の妄想は。

 俺は、こいつのことが好きなのか?

 いやいや、そんな莫迦な……っ、と悩む将臣の後ろを見て、千景が訊く。

「あ、あの子もよその猫ちゃんですか?
 ここの猫ちゃんはお外には出ないんですかね?」

 噴水の向こう、木と木の間を、とっとっとっと……と横切る猫らしき影を千景は見ていたが、将臣は見ていなかった。

 いやいやいや。
 ないないない。

 俺がこいつを好きだとか。

 こいつと結婚するのがちょうどいいと思って、一度、プロポーズはしたが。

 あのときも特に愛なんてなかったしっ。
 などと考えていた将臣は振り返りもせず、適当に答えた。

「ああ」

 だが、実は、その通り過ぎて行った猫影は最後の一匹、フィンだった。

「そうなんですかー。
 ここ、おうちの猫ちゃん以外にもいろんな猫ちゃんが来るんですねー」
と笑った千景は、機嫌良く玄関に向かい、歩き出す。