社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 振り返り言う。

「うちの甥もよく言ってますよ。
 幻の謎のチーズケーキって」

 いや、今も言ってるかは知りませんけどね、と笑ったその顔には見覚えがあった。

 最終面接で見た気がする。

「社長……
 えーと、前社長」

 なんて呼べばいいんだ? と千景が迷っていると、向こうも気づいたようで笑い出す。

「ああ、君はあのときの。
 僕が編纂室に推薦した子だね。

 会社には慣れましたか?」

 あ、はい、と千景は頭を下げる。

 すみません、前社長。
 仕事の合間にお菓子を食べるほど、職場には慣れたんですけど。

 仕事で役に立ってるかはわからないです、と思いながら。