社長っ、このタクシーは譲れませんっ!




 会議室の手伝いが終わったあと、編纂室に戻った千景は、みんなに上のフロアであったことを話していた。

「それで、人かと思ったら、信楽焼の狸だったんですよ~」

「狸? いたっけな」
と将臣が言う。

 ええっ? と千景が声を上げた。

 あなたにはあの巨大な狸が目に入らないのですかっ、と千景は思ったが。

 坂巻が、
「千景。
 男の人っていうのはね。

 見たいものしか見えなかったりするのよ。

 ええっ?
 そんな莫迦なっ、とか女は思うんだけど。

 ……見たいものしか見えなかったりするのよ」
と後半、声低く言う。

 ……なにがあったんですか、坂巻さん。

 っていうか、社長は何故、狸を見たくなかったのだろうか。

 センス良くまとめられた社外のお客様もいらっしゃるフロアの隅に突然の巨大な狸。

 しかも、それは、そのフロアを訪れたりもする取引先の重鎮からの贈り物。

 社長と言えども、撤去するわけにもいかない。

 それでだろうか。