社長っ、このタクシーは譲れませんっ!




 よしくんこと、良紀(よしのり)は千景の従兄だった。

 海外出張のお土産を持って訪れたのだと言う。

「わーい。
 エビフライがいっぱい~」

 大皿料理の並んだ居間のローテーブルに千景は座る。

「どうだ、千景。
 会社勤めは。

 少しは慣れたか」

 昔から、しっかり者のイケメンだった良紀は、学校でも人気があり、
「えっ? ほんとにあんたの従兄っ?」
と千景はよく訊き返されていた。

 自分にとっては不名誉な話ではあるが。

 昔からよくお菓子をくれていたこの従兄を千景は幼き折から敬っていたので。

 そう言われると、かえって自慢に感じていたものだった。

「うん。
 みんないい人で楽しいよ。

 社内ぐるぐる回ってばっかりだから、いい運動になるし」

「使いっ走りか……。
 まあ、最初はそんなもんだよな」
と言う良紀に、よしよし、と頭を撫でられ、千景は喜ぶ。