社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「新幹線に乗るんだ。
 あっちの駅から行ったほうが近い」

 いやいやいや、私、遅刻しますからっ、と千景は訴えた。

「お前の遅刻と俺の遅刻。
 どっちが問題だと思うっ?」

「私ですよっ」
 千景は堂々とそう言い切った。

「社長はなんだかんだで社長じゃないですかっ。

 私はいつクビを切られるかわからない、まだ研修期間中の一社員ですっ。
 私の遅刻の方が問題ですっ」

「……そのクビを切るのは俺なんだが」
と将臣は呟いていたが。

「わかったよ。
 遅刻しても大丈夫なよう、室長に連絡しといてやる」

 スマホを耳に当てた将臣は呼び出し音を聞きながら、ふと気づいたように言う。

「……なんか変じゃないか? これ。
 なんで俺がお前のために手筈(てはず)を整えてんだ?」

 俺がお前の秘書みたいじゃないか、と言われ、はは……と千景は笑って誤魔化した。