社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「それが、今日、会って話したいというから、忙しいと言ったら。
 なんだか顔を忘れそうだから写真を送れと」

「社長のですか?」

「いや、俺の……」

 二人は沈黙した。

「何故、八十島さんの顔を忘れてはいけないのですか?」

「道でバッタリ会ったとき、わからなかったら困るからだろうか。
 俺は社長の秘書だしな」

「送るんですか? 写真」

「送らないわけにはいかないだろう。
 九条真実は今のところ、まだ、社長の許嫁なんだから」

 そんな風に八十島は言った。

 内心、社長はこの話、断りそうだ。

 主にこの嵐山のせいで、と思っていたのだが。