社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「いえ、違います。
 うちの社長です。

 今日はどうもありがとうございました、社長」
と千景はこちらに向かい、深々と頭を下げてきた。

『今日はどうもありがとうございました』

 なんて嫌な言葉だ、と将臣は思っていた。

 普段聞くには、なんてことない言葉だが、今は聞きたくなかった。

 どう聞いても、別れの挨拶だからだ。

 此処から千景は自分と別れ、大家さんと帰るつもりなのだろう。

「そうなの?
 社長さんなの?
 若いわねえ~。

 すごい男前じゃない。
 千景ちゃんがいつもお世話になってます。

 あ、これ、美味しいんですよ、おひとつ、どうぞ」

 超オススメ、と大家さんはアイスをひとつ渡してくる。

 感じのいい大家さんだ。

 なんでタイミング悪く現れるんですかと、今、一瞬、憎みそうになってしまって、すみません、と将臣は心の中で大家さんに謝った。