社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「それにまあ、仕事には真面目に取り組まれているようなので。

 今、女性とチャラチャラしている場合ではないというのは、わかっていらっしゃるはずだ。

 なのに、何故、毎度、お前と出社して来る?」

「それが、たまたま社長と同じ場所でタクシー捕まえようとしてしまうんですよね」

「お前の家は社長の家の近くなのか?」

 千景は答えようとして、思いとどまる。

 ……社長のおうちはこの辺りですか、と訊いたとき、社長の様子がおかしかった。

 社長は朝、何処から来ているのか知られたくないのかもしれない。

 そう思ったからだ。

 だが、八十島は淡々と言っていくる。

「まあ、お前の家が何処かなんて、調べればすぐにわかるんだがな」

 うう、確かに。
 人事に訊けば一発だ。

 普通の社員なら教えてもらえないかもしれないが、八十島ならたぶん可能だろう。

 そう判断した千景は口を割った。

「うちは社長の家の近くではありません。
 桃木町3丁目ヘブンズハウス203号です」

「……誰が部屋番号まで言えと言った」

 俺に訪ねてこいと言うのか、と八十島は真顔で言う。