社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 将臣はまだ渋い顔をしたまま言う。

「……遅くなると、明日の仕事に差し支えるからもう行くぞ。
 千景、タクシーを引き寄せろ」

 得意だろ。
 タクシー捕まえるの、と言いながら、表通りに向かって歩き出す将臣に、
「いや、電話かけて呼んでくださいよ」
と千景は答えたが。

 将臣はそこで、何故か、ぴたりと足を止めた。
 振り向いて言う。

「……なんで俺はお前を名前で呼んでるんだ?」

「え? ……さあ?」

 私に訊かれましても、と千景は苦笑いする。

 ふたたび歩き出した将臣について、タクシーが止められそうな道まで歩いていった。