社長っ、このタクシーは譲れませんっ!



 益岡は明日は来るが、母親はいるかわからないというので、ひとつだけ余分にチーズケーキを買った。

 それにしても、早百合さんの家なのに、早百合さんの方がいない確率が高いとはこれ如何(いか)に、と思いながら、通りに出た千景は、明るいマンションの下の、暗闇では鎮守の森みたいに見える雑木林を見て言う。

「あ、そういえば、武者小路さんはあの雑木林の向こうに住んでるそうですよ。

 ……なんですか?」
と将臣の渋い顔に気づき、千景は見上げた。

「うちのマンションのことは知ろうとしないのに。
 なんで、八十島や武者小路の家は知っている」

「社長のおうちも住所はこの間タクシーで聞きましたよ。

 目を閉じて見なかっただけです。
 ちなみに、八十島さんや武者小路さんのおうちも住所聞いただけなんですけど」

 それがどうした、と千景は思っていたが、将臣はなにかが不満なようだった。