社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「ここのケーキだったのかっ。
 千景」
と振り向いた将臣が千景の両肩をつかむ。

 えっ? 千景? と思ったが、将臣は名前で呼んだことにも気づいていないようだった。

 武者小路のように、もふっとしていない、がっしりした男の手で、将臣は千景の肩をつかんだまま言う。

「ありがとう。
 お前のおかげだ。

 社長になって、ようやくいいことがあった」

「え? 今ですか?
 これがですか?」
と千景は苦笑いする。

 店員さんも笑っていた。