社長っ、このタクシーは譲れませんっ!




 やれやれ、今日もなんとか間に合った。

 ホッとしながら、千景は経理の部長が見つけてくれたとかいう資料を取りに、経理に向かっていた。

 慣れない広い社内で迷子になりそうになりながらも廊下を歩いていると、向こうから八十島がやってきた。

 ほんとうにいつ見ても落ち着き払ってる人だよな~と思いながら、千景はお疲れ様です、と頭を下げる。

「お疲れ様」

 八十島はそのまま通り過ぎていくかと思ったが、足を止め、呼びかけてきた。

「嵐山」
 はい、と千景は振り返る。

「お前、なんでいつも社長と来るんだ。
 恋人ではないと主張していたが。
 だったら、余計に謎だ」

「……社長と付き合っていないというのは、信じていただけたんですか?」

 すると、八十島はひとつ溜息をついて言う。

「社長は、頭はいいが、ぼんやりしてるからな。
 就任早々、女性社員に目をつけるとかできそうにないし。

 お前も自分からグイグイ行くタイプには見えないし。
 まあ、信じてもいいかなと思った」

 ……頭はいいが、ぼんやり。

 社長、秘書の方に、すごい言われ方してますよ……。