会社が近づいて来たので、二人は一本裏の通りでタクシーを降りた。
「よし、素知らぬ顔で歩き出そう」
と将臣は言うが、
「……でも、我々、同じ方向に行きますよね。
社長と社員が素知らぬ顔は変じゃないですか?」
と千景は言った。
「じゃあ、表通り出てすぐのところで、出会って挨拶するフリをしよう。
そして、どちらかが早足に歩き出すんだ」
そう将臣が言ったとき、
「なにしてるんですか?」
と背後から声がした。
朝から一分の隙もない八十島が立っていた。
ひっ、と二人は息を呑む。
「お前、何故、ここに……っ」
と犯人が探偵に追い詰められたときのようなセリフを将臣が吐くと、八十島は斜め後ろのカフェを指さした。
「ここの焼き立てパンがおいしいんで、いつもここで食べてから出社してるんです」
「毎朝か? 優雅だな」
「なに朝からお洒落な感じなんですか」
私なんて、握り飯片手に髪梳かしてるのにっ、と千景は訴える。



