社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 もしや、うちの近くに愛人さんのおうちがあって。

 そこから出社するときだけ、遅刻してるとかっ。

 愛人さんに引き止められて、なかなか出かけられなくてっ。

「待てこら、俺は独身だっ。

 何故、愛人だ。
 恋人だろうよっ。

 っていうか、お前、社長なら愛人がいると思ってるだろうっ」

 偏見だっ! と将臣に怒鳴られそうなことを千景は思っていたが。

 実はその推理、一部、当たっていた。

「……す、すみません。
 社長の触れてはいけない部分に触れてしまって」

 誤解したまま、千景は謝る。

「別に触れてはいけない話じゃないが。
 聞くからには全部聞けよ。

 半端に聞かれると俺の評価が下がるから。
 実は……」

 そこで、ストップッ、と千景は将臣に向かい、手を突き出した。

「結構ですっ。
 知りたくありません、社長の秘密なんてっ」

 消されたらどうするんですかっ、とドア、ギリギリまで後退しながら千景は叫ぶ。

 タクシードライバーの人が横目に後ろを窺いながら、

 私も消されるのでしょうか……?
という顔をしていた。