社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「用もないのに来るな」
「すみません」

「仕事の邪魔だ。
 お前の顔を見ると、まったりするから」
「すみません」

「なんか家に帰ったみたいな気分で落ち着くんだ。
 俺は仕事中はもっとビリビリするような空気の中にいたい」
「すみません」

 八十島が呟いた。

「……武者小路や恋愛ドラマに考えさせるより、よっぽど告白っぽいですよね」

 早蕨は声に出さずに笑ったあとで、壁から離れ、
「ところで、恋愛ドラマって誰?
 さっき言ってた九条真実って子?」
と訊いてくる。

「はい。
 社長の許嫁らしいんですけど」

「いや、社長の許嫁にアドバイス要求してどうすんの」

「だって、全然、社長のこと知らないのに、親に言われるがままに社長と結婚しようとしてるだけだからですよ。

 まあ、私に毎日毎日、社長のこと訊いてくるんで、社長に興味関心はあるみたいなんですけどね」

「……いや、その子、あなたに興味関心があるんじゃないの?」
と言われ、そんな莫迦な、と八十島は笑う。