社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 


 その頃、八十島は、社長室の隣にある秘書室でウロウロしていた。

 親のような気持ちで千景を心配してしまう。

 社長室と直接つながっている扉があるのだが、開けてみるわけにもいかない。

 なにか緊急の用事はないだろうか。

 ……ないな。

 八十島は、そっとその扉に耳を当ててみようとした。

 だが、そこに早蕨が戻ってくる。

「すみません」
と立ち去ろうとしたが、早蕨はその扉ではなく、書類棚の側の壁に耳を当て、手招きしてきた。

「ここがよく聞こえるのよ」
と言う。

 近くに寄り、自分もひんやりする壁に耳を当ててみた。

 確かに、微かに二人の話し声が聞こえてくる。