社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「まあ、返事は急がない。
 ゆっくり考えてみろ」

 そう将臣に言われ、思わず、

 あなたが一晩ゆっくり考えた方がいいのでは……?
 正気に返るかもしれませんよ、
と言いそうになる。

「そういえば」
と思い出したように千景は言った。

「今思えば、九条真実さんの発言内容、おかしかったですよね」

『わたくし、昨夜、見ましたのよっ。

 あなたが将臣様らしき人影と将臣様のお母様の家から出てきて、寿司屋に行き、二人仲良く出てくるところをっ』

 ……らしき人影。

 社長が小さいときの真実さんしか知らないのと同じに、あの人も今の社長のことは知らないんじゃないかな? と思い、言うと、

「そうかもしれないな。
 箱入り娘だから、俺と結婚するんだと言われて、そうなんだ、と思っただけなんだろう」
と将臣も頷いた。

「ああいう世間知らずのお嬢様は思い込むと怖いぞ」

 武者小路が将臣を怖がらせるようとしてか、ただの忠告なのか、そんなことを言う。

「でも、真実さん、私より流行りのテレビ番組とかにはお詳しいですよ」

 その瞬間、キンコーン、と千景のスマホが鳴った。