社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 いや、待て待て、と将臣はこちらに向かい、ストップ、という標識のように手を突き出してくる。

「大丈夫だ。
 お前にもなにか愛せるところがあるはずだ」

「もう黙れ。
 お前、口を開けば開くほど、結婚から遠ざかってるぞ。

 学生時代から変わらぬ朴念仁(ぼくねんじん)だな」
と武者小路に言われた将臣は、お前もだろっ、と言い返している。

「俺は彼女いたからな」

「お、俺は確かにいなかったがっ。
 バレンタインには、掃いて捨てるほどチョコもらってたぞっ」

「うち、男子校だろっ」

 千景の妄想の中で、将臣が行列を組む男子たちにチョコをもらい、次々おつきの人に渡していた。

 そのおつきの人はでかいダンプカーにそれを積んでいる。

「学校の行き帰りにだっ」

「ほんとうかっ?
 近隣の女子高生たちは、お前は近寄り難いからチョコなんて渡せないって言ってたぞ」

「早百合さんからひとつはもらえそうですよね。
 あ、私も今度あげますよ」
と千景は言って、

「なに同情気味に言ってんだっ」

 ほんとだぞっ、と将臣に怒られる。