社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 


「気に入ったわ」
ともう益岡にコートを着せてもらいながら、早百合は言う。

「でしゃばらないところもいいし」

 そう本人を前に言った小百合は、
「九条との話は、財満(ざいま)が勧めてるみたいなの」
と言う。

 財満というのは、父の弟が婿養子に入った一族だ。

「なにか魂胆があるに違いないわ。
 そもそも、私は九条真実の叔母に当たる安美(やすみ)がだいっ嫌いなのっ。

 だいたい、あの女、持久走のとき、一緒に走ろうねって言ったくせに……っ」
と何十年も前の学生時代の話を持ち出してくる。

 っていうか、一緒に走ろうねと言ったということは、もともとは仲が良かったということか。

 いきなり、仲直りして、
「あなた、真実さんと結婚しなさい」
と言い出しかねない。

 ちょっとゾッとしながら、将臣は、えーっという苦笑いのままフリーズしている千景を見る。